例年、この時期から公立中学校受験に関するご相談を受ける機会が増えてきます。そこで、以前の記事に加筆・訂正を加えて掲載します。
お子さんの公立中学校受験をお考えの方はご一読ください。
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埼玉県内の学校で公立中学校受験と言えば、一昔前であれば埼玉大学附属中学校だけでした。しかし、近年になって附属高校のない埼玉大附属中学校よりも中高一貫教育を謳い、また進学実績も申し分ない市立浦和中学校と伊奈学園中学校の人気が高くなっています。また私立の中高一貫校に比べて学費も安い分、受験を検討しやすい側面もあります。
では、公立の中高一貫校への合格を目指すために必要な条件は何でしょう?
○子どもが自ら受験したいと思うこと
これは公立の中高一貫校受験だけに限ったことではなく、中学校受験すべてにおいて最も大事な条件です。お子さんが自ら「○○中学校で勉強したい!」という意思がないと、受験は上手くいきません。受験勉強は、ほぼ間違いなくこれまでの人生で最も過酷な経験を強いるものです。私を含め、多くの元受験生が「中受が一番きつかった」と過去を振り返ります。保護者の方がいくら積極的であろうとも、お子さんが白けていたり、「仲のいい友達と近所の近くの中学に行きたい」と望んだりしていては、受験勉強に向かわせることはできません。ですからまず、受験をする前にお子さんと十分にコミュニケーションをとって下さい。もちろん親御さんが何も促さなくてもお子さんが受験したいと主体的であれば問題はないのですが、受験に対して消極的な場合は、親御さんがお子さんを受験したいと思わせるように仕向けることから始めないといけません。例えば中学校の文化祭などの学校イベントに親子で足を運んでみるのも一つの手です。「大学受験で有利だから」とか、「今のうちに苦労しておけば後が楽になる」といった大人目線でのアドバイスは、たしかに的を射た正しい理論ではありますが、多くの場合お子さんのモチベーションを上げる文言にはなりえません。ビスマルクの「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」という言葉にもある通り、他人の経験を自分に置き換えて行動するということは、決して平易なことではありません。まして、せいぜい10〜12年しか生きていない小学生のお子さんにこれを期待することは酷だと言っても差し支えないでしょう。お子さんのモチベーションを上げさせるためには、なるべくそう遠くない自分の具体的なイメージを作らせることです。「この中学校に行けば、こんなきれいな校舎で毎日勉強できる。」、「この中学校に入れば、この可愛い制服を着ることができる」など、我々大人からしてみれば副次的な要素でしかない些細な事柄でも、意外と子供は食いつきます。
○学力面の条件は?
受験の世界で学力を計る指標は「偏差値」ですが、公立中学校の場合は「首都圏模試」や「四谷大塚模試」の偏差値はあまり参考になりません。私立中学校受験の場合、暗記一辺倒の対策、いわゆる「詰め込み型」の学習でも合格できる学校はかなりの数あります。「知識」さえあれば解けてしまう問題が毎年一定の割合で出題され、算数も「解法パターン」さえ覚えていればできてしまう問題ばかりという私立中学校も少なくありません。また、学校説明会に参加すれば、入試問題の出題範囲や重要な単元などもある程度具体的に説明してくれる学校もあります。もちろん、高度な思考力を要求される問題が出題されないことはないですが、それが解けるか解けないかが合否の分かれ目になる中学校というのは一握りに過ぎないのです。一方、公立の中高一貫校受験で求められる学力は、私立中学校が求めているものと少し違います。以下に出題傾向をいくつか挙げましょう。
・理数系の科目は、解法パターンが定まった問題の出題が私立に比べて少数です。難関私立が出題するような高度な発想力や計算力を必要とする問題はほとんど出題されていません。
・記述問題がとにかく多く、知識だけを書いて得点できる問題がほとんど出題されていません。
・必要な知識は小学校の教科書レベルから大きく逸脱してはいません。基本的な知識を使って「分析」し、分析した結果を採点官にきちんと伝える「記述力」が合否の決め手になります。
以上を踏まえると、
@ 基本的な最低限の知識
A それを使って「思考」し、「分析」することができる力
B 第三者にわかりやすい言葉で伝える記述力
これら3つの力が公立の中高一貫校合格に必要な学力になります。
○受験の準備はいつから始めればいいのか?
これもよく相談されることなのですが、早いに越したことはありません。しかし、「小学校6年生の今からでは絶対無理ですか?」と言われると、それも無理ということはありません(挑戦できるところまでお子さんを導くことはできます)。現状でしっかりした記述力があれば可能性はあります(しっかりした記述力とは、正しい日本語が運用できていて、何を伝えるにしても客観的な根拠を示すことがき、かつ主観的になっていない文章が書ける力のことです)。「知識」は時間さえかければ覚えることができますし、「思考力」「分析力」も解説を聞き、また問題慣れすることで比較的速く向上させることができます。最も養成に時間と手間がかかるのが記述力なのです。また最も独学で養成しにくいのも記述力なのです。書いてもらった文章に朱を入れてもらい、なぜ「これだと上手く伝わらないのか」ということを指摘され、それを訂正していきます。この作業を何度も何度も繰り返しながら記述力を向上させていきますしていきます。例外的に普段から読書をよくする子(1週間に1冊以上の読書週間のある子)は、記述力の向上が速い傾向にあります。普段から正しい上手な日本語の文章を浴びていて、自分が書いた文章を読み直したときに「違和」を感じやすいため、文章の自己修正できるからです。読書習慣のあまりない子で公立中高一貫校を目指すのであれば、できれば遅くとも5年生になるまでに受験準備を開始したいところです。
○記述力は一生役に立つ力
公立中受験で最も得点に直結する記述力ですが、これは一生役に立つ力です。第1に、受験終了後の勉強やその先の受験で役に立ちます。中学校で学習する「証明」という単元は、記述力がなければ点数を貰える答案が書けません。また大学受験まで目を向けると世間一般的に一流と言われる大学のほとんどが(国立大学であれば全てが)多くの記述問題を出題しています。答えが正しくとも、それを導くプロセスが説明できていないと点数がもらえないのです。いくら計算力と思考力があっても記述力がないと1点ももらえないのです。第2に、社会人になったときに役立ちます。仕事をするとき、物事の多くは文書によって提案し、決定が下されます。いくら優れたアイディアがあり、口でそれを伝えることができても文章の形にできなければ実現することができなくなり、成功のチャンスを失うことになってしまいます。このあたりは、これをお読みの保護者の方々であればわざわざ説明するまでもなく、ご自身で実感されたことが少なからずあるはずです。
受験では、模試でどれだけ高い偏差値を取っていたとしても100%合格が保証できるようなことはありえません。特に公立中学校は近年知名度も高まって倍率が高騰しています。しかし、「合格したい」という気持ちがあるのなら、倍率や可能性を気にせず挑戦して欲しいと思います。弛まぬ努力を続ければ合格の可能性は自然と高まってきますし、目先の受験だけではなく、生涯にわたって活躍するための武器を人生の早い段階で手に入れるチャンスにもなるのです。
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