「オーバーラッピングは試したことがあるけれど、いまひとつ効果が感じられなかった」「オーバーラッピングを聞いたことはあるものの、シャドーイングとの違いがよくわからない」という方もいるかもしれません。
今回は、オーバーラッピングの効果と、確実に効果をもたらすための正しいやり方をご紹介します。
オーバーラッピングとは
オーバーラッピングは、英語の音声と同時に発声するトレーニング。英語の「over(上方に)」と「lap(重なる・包む)」で構成される動詞「overlap」が意味するとおり、流れてくる英語の音声に始めから終わりまでピッタリ重ねて英文を読み上げる練習方法です。
オーバーラッピングは、別のトレーニングであるシャドーイングと変わらなさそうな印象をおもちかもしれませんが、このふたつには異なる点もあります。
シャドーイングは、英語の音声を聞きながら、1、2語遅れで音声を追いかけて発音するトレーニング。シャドーイングは、聞こえてくる音声を影(シャドー)のように追いかけることから命名されたと言われています。何もスクリプトを見ずに、影のごとく音声のあとを追いかけるイメージで、聞いた音声に若干遅れて音の再現をしていく練習方法です。
対して、オーバーラッピングは「文字ありシャドーイング」「パラレルリーディング」と呼ばれることもあります。しかし、「スクリプトを見ながら行なう」点は、文字を見ずに行なうシャドーイングと大きく異なる点と言えるかもしれません。
オーバーラッピングをうまく活用することで、英語の正確な発音、アクセント、音声変化、リズムなどを身につけやすくなりますよ。オーバーラッピングを実践して、英語のスキルアップを目指しましょう。
オーバーラッピングの効果
まず、オーバーラッピングには具体的にどのような効果があるのか、見ていきましょう。
1. リスニングスキルの向上
そもそもオーバーラッピングは、文字を読む「音読」の活動と、音に遅れずついていく「シャドーイング」の活動の両方の側面があります。取り組み方次第では得られる効果にも差が現れやすい、と言えるかもしれません。しかし、「音に遅れずに発音する」「追い越してしまわないようにモデル音声にも注意を向ける」必要性があるため、発音やリスニングスキルの向上に最も効果が期待できます。
リスニングのステップは、耳から入った音声がどの音か聞き分ける「音声知覚」と、意味の「理解」の2種類です。
リスニングにおいて最初に立ちはだかる壁は、相手の話す英語の音が聞き取りにくいこと。書かれている英語は理解できるのに、相手がなんと英語で言っているのかわからないと、もどかしい気分になりますよね。
英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を運営する株式会社スタディーハッカー取締役で、言語教育情報学修士・TOEIC990点・TESOL(英語教育の国際資格)をもつ田畑翔子氏は、個々の単語の発音はおおむね知っているものの、ナチュラルに続けて発音されると聞き取れなくなる一番の原因として、ネイティブが自然に話すときに起こる「音声変化」を挙げています。
田畑氏によると、英語ネイティブは特に実際の会話において、私たちが教科書などで習ってきたのとまったく同じようには発音してくれないことが多いのだとか。ネイティブは、音をつなげたり、省エネで発音したりして、言いやすいように発音を変化させているとのことです。
ネイティブの発音が、これまで自身が想定していた「教科書などで正しいと習う音」と異なるのであれば、聞き取りにくいと感じるのも無理はないでしょう。相手の英語を細部まで聞き取れるようにする近道は、音声変化のルールを身につけて、自分でも無意識に音声変化を再現できるようにすることなのです。
オーバーラッピングは、英文を読んだ際に自らが英語ネイティブの音声変化を無意識に再現できるようにするためにも非常に有効なトレーニング。オーバーラッピングでは、音声変化している箇所を含め、言い始めから言い終わりまで完全に音声にかぶせて読み上げるように心がけてみましょう。
繰り返しオーバーラッピングの練習をして、モデル音声通りにピッタリそろえてオーバーラッピングができれば、音声変化を無意識に再現できるくらいに口や舌を動かすことに慣れていきます。そうすると、ネイティブが実際にする発音と、これまでイメージしていた発音や、実際の自身の発音とのギャップを埋めることが可能です。
こうして、音声変化が起きている箇所も含めて、短い音声の単語など細部まで聞き取れるようになっていきます。
2. 発音の矯正
オーバーラッピングは、発音の矯正にも効果が期待できるトレーニング。ただスクリプトを参照して音読するだけでは、自己流の発音やイントネーションが出てしまいがちですが、オーバーラッピングではモデル音声に合わせる必要があります。英語の音声変化に加えて、正確な発音、アクセント、抑揚の再現にも意識が向いていくのです。
英語の音声にピッタリ合わせてオーバーラッピングができるようになるためには、ネイティブの自然な発音の仕方を忠実に再現しなければなりません。そうして音声面の再現度にこだわり発音練習を重ねることで、徐々に、スピーキング時の発音が改善されていくのです。
英語学習において、発音はそこまで気にしなくてもいいと考える人もいるかもしれません。しかし、ネイティブレベルとはいかなくとも、相手に聞き取りの負担をかけすぎないくらいの正しい発音を身につけることは、英語のコミュニケーションにおいてとても重要。オーバーラッピングは、英語特有の発音に慣れるのに有効な練習方法なのです。
オーバーラッピングのやり方
オーバーラッピングは、細かいステップに分けて練習を行なうことで効果がより発揮されます。ここからは、ステップごとの注意点に触れつつ、音声面を鍛えるのに効果的なオーバーラッピングの練習方法をご紹介しましょう。
1. 聞き取れない箇所の特定
オーバーラッピングを実際に行なう前にやっておくべきなのは、聞き取れない箇所がどこかを特定すること。オーバーラッピングでは、聞き取れなかった箇所の発音練習に繰り返し取り組むことが欠かせません。集中して発音しなくても自然な音が再現できるという状態をつくることで、自身でも驚くほど聞き取りのスキルが改善されます。
聞き取れない箇所を特定するには、ディクテーションが有効。ディクテーションは、聞いた英語をすべて紙に書き取るトレーニングです。以下のやり方で、聞き取れない箇所を発見しましょう。
【ディクテーションのやり方】
用意した英語の音声を再生する。聞き取れた英語の音声を次々と紙に書き取る。聞き取れない部分は繰り返し聞きたくなっても、2、3度に留める。
ディクテーションのあとは、スクリプトを見ながら再度英語を聞き、正しい発音や音声変化を確認しましょう。そして、音声を聞いて、部分部分で音声を止めてリピート練習をします。音声をよく聞いてまねをするのがポイントです。スムーズにリピートができるようになったら、いよいよオーバーラッピングに入ります。
2. スクリプトを見ながらオーバーラッピング
冒頭でも述べたとおり、オーバーラッピングでは、英語を目で追いながら、最初から最後まで、音声にピッタリ合わせて発音していきます。流れてくる英語音声を、ちょっとした間まで含めて再現して自分の声で吹き替えるようなイメージです。
オーバーラッピングの注意点は以下のふたつ。
スクリプトは必ず見ながら行なう音声を忠実にまねる
オーバーラッピングは、スクリプトを見ながら行なわなければなりません。オーバーラッピングの効果の箇所でも述べたとおり、英文を見た瞬間に英語特有の音声変化を無意識に再現できるようにするのが、オーバーラッピングの目的。スクリプトがないと、言い始めから終わりまでうまくそろえるのが困難になり、効果が薄くなってしまいます。
また、音声をできるかぎり忠実にまねることが重要。英語の正確な発音、アクセント、抑揚、音声変化を意識して聞いて、再現していくことで、効果的なオーバーラッピングになります。「カタカナ発音」のまま強引に急いで発音するだけのオーバーラッピングをしても、正しい発音が身につきにくくなるのはもちろん、自然な音への慣れも期待しづらくなるため、非効率的です。
3. ずれてしまう箇所のリスニングとリピーティング
何度も繰り返しても、音声とずれるようであれば、もう一度リスニングをしてみましょう。自分の発音とモデル音声を比較してみて、どこが音声とずれているかを特定します。そのあと、音声とずれる箇所について重点的にリピーティングを行ないましょう。
リピーティングをしてうまくまねできるようになったら、再度始めからオーバーラッピング。言い始めから言い終わりまで音声にピッタリかぶせられるまで繰り返し練習しましょう。
何度繰り返してもどうしても音声についていけない場合は、再生速度を一時的に少しだけ落としてみるのもよいでしょう。うまくできるようになったら、等倍速に戻してオーバーラッピング練習をしていきます。以上のやり方でオーバーラッピング練習を進めていくにつれて、効果が実感できるはずです。
オーバーラッピングに最適な教材
オーバーラッピングのやり方がわかったら、今度は教材選び。特にオーバーラッピングを初めて行なう方や、初級者の方にとっては、教材選びがとても重要。どのような教材がオーバーラッピング練習に最適なのでしょうか。
オーバーラッピングに最適なのは、自分の英語レベルより簡単な英文を扱っている教材。教材に目を通してみて、文章の大部分は読める・聞き取れるという程度が適切です。あまりに難しすぎる教材を選ぶと、苦手意識が強まって挫折もしやすくなってしまいます。
次に重要なのは、短い文が羅列してあるスクリプトを選ぶこと。短い文のほうが、長文に比べてピッタリ重ねての発音が行ないやすく、またオーバーラッピングの際に音源とのずれを特定しやすいためです。オーバーラッピング練習にピッタリな教材をご紹介します。
1.『5つの音声変化がわかれば英語はみるみる聞き取れる』
オーバーラッピングを英語学習で取り入れるのに一番のおすすめが、『5つの音声変化がわかれば英語はみるみる聞き取れる』。ネイティブの話す英語が理解できないという問題を克服するために必要な音声変化の知識から、さまざまな例文を使ったオーバーラッピングのやり方まで網羅しており、実際に練習まで行なえる一冊です。
Day1からDay10までの10日間構成で、音声変化のルールとオーバーラッピングを中心にしたトレーニング方法の詳しい解説が載っています。1日1時間で集中トレーニングできる構成になっており、ひとりでも正しいやり方でオーバーラッピングの練習ができますよ。
リスニング用の音源は、ダウンロードも可能です。また、英語学習で悩んでいる方のための学習アドバイスも載っています。効率よくリスニング力を向上させたい方に必須の一冊です。
2.『公式TOEIC Listening & Reading 問題集』シリーズ
TOEIC Listening & Reading の問題集シリーズですが、TOEICの形式を活用するかたちでオーバーラッピング練習が実施できます。TOEICのリスニングセクションパート2の形式は、短い文が並んでいる質疑応答問題。音声変化など発音面の解説はありませんが、短い文が羅列してあるスクリプトが豊富なため、先ほど述べたオーバーラッピングに最適な教材のひとつと言えるでしょう。
公式問題集を使って、オーバーラッピングの練習をすることで、TOEIC対策になるだけではなく、ビジネスでよく使われる英語表現のインプットにも役立ちますよ。
3.『英語リスニングのお医者さん』シリーズ
英語の音声変化を中心に、具体的なリスニングの課題に合わせて練習ができるシリーズ。英語における音声変化の特徴を知るのに便利です。
買い物や空港、レストランなどさまざまな場面に応用できる例文が出てくるため、オーバーラッピング練習になるだけでなく、英会話で実践的に使える表現も豊富にインプットできます。リスニングスキルが伸びないと諦めてしまっている方、会話表現をたくさんインプットしたい方は、試してみてはいかがでしょうか。
4.『究極の英語ディクテーション』シリーズ
聞き取りに関する課題を解決したい方におすすめなのが、こちらのシリーズ。リスニングに焦点を当てながら基礎文法知識もカバーしているため、初心者にもおすすめ。
こちらの教材もリスニングのみに終始せず、聞き取れない課題を見つけ出し、例文を活用してオーバーラッピング練習まで進めていきましょう。そうすると、相手がなんと言っているかわかりにくいという問題や、英語の音声を通しての意味理解が苦手だというリスニングの悩みまで解決しやすくなるはずです。
また留守電メッセージ、オフィスでの会話、社内イベントの告知、ツアーの宣伝などの実用的なトピックを扱っているため、こちらもさまざまな場面での表現をインプットしたい方におすすめです。
Vol. 1は最も基礎的な1,000語、Vol. 2は、日常生活で必要な2,000語に使用語彙が絞られています。初級者の方はこちらのシリーズからオーバーラッピング練習を始めてみるのはいかがでしょうか。
オーバーラッピングの効果をさらに高める方法
オーバーラッピングの効果はなんとなくわかったものの、いざ独学しようとすると、どのあたりに聞き取りの課題があるのか、把握しづらいこともありますね。そんな疑問を解決する近道となるのが、第二言語習得研究の知見から、聞き取りにくい箇所を診断してもらうこと。
あなたが英語を聞き取れない原因はなんなのかを突き止め、オーバーラッピングなどのトレーニングを正しく積み重ねていくことで、細部まで聞き取れるリスニングスキルが効率よく身につきます。
オーバーラッピングは、相手の英語が聞き取れないという問題を、効率よく解決する学習法。オーバーラッピング練習を正しい手順で行なうことで、相手がなんと言っているのか、しっかり理解できる状態をつくっていきましょう!
ノーバスでは、授業含め、各教科ごとに生徒に合った勉強法を講師陣がアドバイスしています。
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